一人親方からの損害賠償請求事例
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一人親方が作業中に被災した場合、被災者自身が政府労災に特別加入さえしていれば、たとえ上位会社との間に多少なりの使用従属関係(いわゆる労働者性)があったとしても、元請業者が加入している労災か、又は自身が特別加入している政府労災のどちらか一方からの補償は受けられます。

しかし実質的な使用従属関係にあった場合は、別途、安全配慮義務違反等による損害賠償まで求められる可能性があります。

以下の事例は政府労災に特別加入していた一人親方が被災したという内容ですが当該被災者が元請業者に損害賠償を請求し、その訴えが認められたケースです。

裁判例 H工務店(大工負傷)事件 労働判例980号81頁

一人親方として現場作業に従事していた男性大工が、住宅建築現場の2階(いまだ床のない2階部で地面から約3.5mの高所)で壁や床にコンパネをはめ込む作業を行っていた際に、木槌を振り上げて当て木を打ちコンパネをはめ込もうとしたところ、当て木の上部を叩いたため当て木が後ろに飛び、バランスを崩して前のめりになり、そのまま地面に落下してしまい、頚椎脱臼骨折、両手関節骨折の重傷を負った。その後工務店(元請)に対して債務不履行責任(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償を求めた事件



【事実関係】
・ 被災者は独自の屋号を用いるなどして30年以上大工として稼動しており、事故当時は一人
    親方の労災保険に給付基礎日額6000円で加入していた
被災者は事前に知らされていなかったが通常建前は1日で終了することから工事期間を1日と
    考えており、報酬は相場に近い1日2万円と考えていた
・ 被災者はカケヤ等の大工道具を持参したが、電動工具等の高価な道具は工務店が所有する
    ものを使用した
事故当日の午前中(事故発生は午後)は、工務店の指示に従って木材の並べ替え、玉掛け、 
    部材引上げ、基礎の上に柱を立てて骨組みを作り、傾きを直すなどの作業を行っていた

・ 現場には足場や転落防止ネット、マット等は設置されていなかったが被災者は次から仕事が
    もらえないとも考えてこれに不満は述べなかった
・ 被災者は地下足袋を履いておらず運動靴を履いていた
・ 被災者は命綱をつけていなかった
・ 一審の地裁判決では被災者は一人親方として独立していることなどから雇用関係の存在を
    認めず工務店側の注意義務についても否定し、請求を棄却していた

大阪高裁 平成20.7.30判決

「被控訴人(工務店)は、本件工事の元請人として、本件現場を管理し、材料を用意し、建前建築のために一人親方の控訴人(男性大工)を本件現場に呼んで、控訴人が大工道具を持参して、日当2万円の前提で同作業に従事したものである以上、控訴人、被控訴人間の契約関係は典型的な雇用契約関係といえないにしても、請負(下請)契約関係の色彩の強い契約関係であったと評価すべきであって、その契約の類型如何に関わらず両者間には実質的な使用従属関係があったというべきであるから、被控訴人は、控訴人に対し、使用者と同様の安全配慮義務を負っていたと解するのが相当である。控訴人が30年以上の経験と一級建築士の資格を有する大工であること、一人親方の労災保険に加入していたことは上記関係に基づく被控訴人の上記安全配慮義務の発生、内容、程度を直ちに左右するものではない。」

「そして、控訴人が従事した工事は木造2階建物の建前工事であり、未だ床のない2階部で平面部に端から順番にコンパネをはめ込んで床面を形成する作業を行っていたものであり、2階部は地面から約3.5mの高所であったから、被控訴人において、控訴人を含む高所作業従事者が墜落する危険があることを予見し又は予見し得るべきものであって、低層住宅建築工事における労働災害防止を図るために軒高さ10m未満の住宅等の建築物の建設工事に適用される足場先行工法に関するガイドラインが策定されて同実施が推奨されていたことにも照らすと、コスト等の理由により足場の設置がされない事例が世上多かったにしてもなお、本件事故当時、上記安全配慮義務の履行として、外回りの足場を設置し、これが物理的に困難な場合には代わりに防網を張り、安全帯を使用させるなど墜落による危険を防止するための措置を講ずべき義務があったといわざるを得ない。(略)被控訴人は、2階部の床設置を含む建前工事において、上記の危険防止措置を何ら執らなかったものであるから、安全配慮義務違反が認められ、同違反と控訴人の前受傷との間に相当因果関係が認められる。」

大阪高裁は、被災者の損害につき、逸失利益や後遺障害慰謝料等合計2992万余円を認めた上で、そのうちの2割相当(658万余円)について工務店に支払を命じました。過失相殺が8割となった主な理由としては次の点などが考慮されてのものでした。

・ 現実には2階建木造建物建築において足場等が設置されない場合も多く、被災者は30年以上
    の経験を有する大工で相応の道具選択と技量が期待されていたこと
・ 本件現場で足場等が設置されていないことを明らかに認識しつつも工務店に何らの措置も求
    めなかったこと
・ 被災者側の道具選択と技量に誤りがあったと言えること

参考リンク:平成8.3.22判決 浦和地裁 (全基連のページ)
関連リンク:孫請労働者(遺族)からの損害賠償請求事例
                労働者と一人親方(個人事業主)の違い
                労働基準法の『労働者』の判断基準
                一人親方と一時的に雇用契約を結ぶ場合
                建設業における総合的労働災害防止対策 (厚生労働省のページ)
                労働安全衛生規則(足場等)が改正されました (厚生労働省のページ)
                足場先行工法に関するガイドラインのあらまし


元請や上位会社としては、「一人親方は政府労災に特別加入していれば 一安心」ということには必ずしもならない事が上記事例からも分かると思います。雇用契約を結んでいない外注といえども両者間で実質的に使用従属的な関係があった場合、損害賠償を請求されその訴えが認められてしまう可能性があることを認識した上で、現場における指揮命令や契約内容等について再確認してみる必要があると言えます。


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