孫請労働者(遺族)からの損害賠償請求事例
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元請業者は下請業者の労働者との間にあっても、当該労働者が元請業者の指定した場所に配置され、元請業者の供給する設備、器具等を用いて又は元請業者の具体的な指揮監督のもとに労務の提供の行う場合であれば、元請業者は、当該下請業者の労働者との間で特別な社会的接触の関係に入ったものと認められ、信義則上、当該労働者に対して、その具体的状況に応じた内容の安全配慮義務を追うものとされています。(三菱重工業神戸造船所事件 最一小判 平3.4.11)

以下の事例は孫請業者に雇用されていた従業員が被災直後に死亡したという内容ですが、被災者の遺族らが元請業者に損害賠償を請求し、その訴えが認められたケースです。

裁判例 O技術(労災損害賠償)事件 労働判例945号24頁

孫請業者であるB産業に雇用されていた従業員が、擁壁の設置および床掘りした部分の埋め戻し作業を行っていた際に、鉄板(重量800kg)と土壁面との間を支えていた桟木が外れて鉄板が土壁面側に倒れ、鉄板の土壁面側にいた従業員が鉄板と土壁面との間に挟まれ、同日、肝損傷による出血性ショックにより死亡した。その後、遺族らは、元請であるY社には被災者に対する安全配慮義務があったとして民法715条、709条に基づき損害賠償を求めた事件



【事実関係】
・ 被災者はB産業(孫請)に雇用される以前もとび職として建築工事等に従事した経験があった
・ 被災者は、埋め戻しの作業に従事したことはあったが、鉄板を使用しての埋め戻しを行った
  ことはなかった
・ 実際に鉄板の使用を決めたのは孫請の現場代理人Eであり、その旨を元請Y社の現場代理人D
  にも報告した。Dは鉄板を使用することについて特に意見を述べることはなかった
・ 孫請の現場代理人Eは、被災者らに具体的に鉄板を立てる位置を示したが、固定方法等につい
  ては指示しなかった。そのため被災者らは作業員同士による相談を経て固定方法を決めた
元請の現場代理人Dは、個々の作業の具体的な施工方法等は孫請に委ね、具体的な指示を
  出すことはなかった。なお、孫請の現場代理人Eは、Dから具体的な作業方法等について指示
  があった場合には、それに従わざるを得ないものと理解していた
元請の現場代理人Dは、孫請の従業員らが本件工事現場に新たに加わったときに、同人らに
  対し、新規入場者教育として工事現場での一般的な安全教育を行った。なお、作業開始後に
  直接指示をすることは一切なかった

・ 元請Y社は、工事の発注者である沖縄市に対し、A土木を下請とした旨通知したが、B産業が
  孫請となったことは通知しなかった。そのため元請の現場代理人Dは、孫請の現場代理人Eに
  対しY社の名前の入った作業服を支給し、作業中には同作業服を着用するよう指示した。Eは
   これに従った

・ A土木は、現場代理人の選任はしたものの常駐はさせておらず作業員も派遣していなかった。
    実体は孫請にほぼ丸投げしていた形だった
工事に必要なユンボなどの土木機器や工具は、すべて孫請が準備することになっていた
・ 元請Y社は、沖縄市と本件請負契約を締結する時に建設労災補償共済制度に加入したが、
    その際、下請業者等の労働者も被共済者としていた。
事故後、Y社は共済金の支払を受けた
    が、遺族らに交付することなく運転資金として費消した
・ 一審の地裁判決では、元請の現場代理人Dは被災者についての労務提供の過程を具体的に
    決定する権限および管理をする立場にはなかったとして、元請Y社の被災者に対する安全配
    慮義務の存在を否定し、遺族らの請求を棄却していた


福岡高裁那覇支部 平成19.5.17判決

「B産業による本件工事の施工は、B産業が自ら準備した作業機器等を使用しており、各工事の具体的な施工方法について、被控訴人(元請Y社)の現場代理人Dが細かく指示を出していたとは認められない。B産業が孫請業者としての独立性を完全に喪失し、B産業の従業員が被控訴人の社外工として稼動していたとまでは認められない。

しかしながら、前記認定の事実関係によれば、@本件工事は、被控訴人が発注者である沖縄市から請け負い、A土木に下請させ、更にB産業に孫請されている形式をとっているが、本件現場では、被控訴人の現場代理人DとB産業の現場代理人Eとが常駐し、被控訴人は、現場代理人を通じて、B産業の従業員の日々の作業を管理して指示を与えるなどの指揮監督をしていた(必要があれば、被控訴人の現場代理人は、B産業の従業員を直接指揮することも可能であった)、と認められる。A被控訴人の現場代理人は、B産業のA班が本件現場に入るに当たって、A班のメンバーに労働災害を防止するための基本的な事項について直接に注意指導をしている。B被控訴人は、沖縄市の指導に従い、本件請負契約の締結に際し、財団法人建設業福祉共済団が行う建設労災補償共済制度に加入し、下請業者の労働者も被共済者としている(これは、被控訴人が下請業者の労働者に対しても労働災害の発生を防止することを要請されていたことを推認させるし、本件事故について共済金4000万円が被控訴人に支払われている)。C被控訴人は、本件工事現場の作業中、B産業の従業員に被控訴人の名前の入った作業服を支給して、同作業服を着用するように指示している、との事情が指摘できる。

上記指摘の事情及び前記認定の事実関係に照らせば、本件工事に従事したB産業は、本件工事の施工に当たり、注文者からの指揮監督を受けない独立した事業者である請負人ではなく、被控訴人から、現場代理人を通じて、間接・直接に指揮監督される関係にあった、と認めるのが相当であるから、被控訴人は信義則及び条理上、孫請であるB産業の従業員であった被災者に対してもその安全に配慮する注意義務を負っていた、と認められる。

被控訴人は、被控訴人の現場代理人であるDは、被災者らに対し、具体的な指示をしていなかったから安全配慮義務は負わないなどと主張している。しかし、前記認定のような関係が被控訴人とB産業の従業員との間で認められる以上、Dが被災者に具体的な指示をしていなかったことは、被控訴人が安全配慮義務を負うと認めることの妨げにはならない。」

上記理由により福岡高裁那覇支部はY社が被災者に対し安全配慮義務を負っていたものと認定しました。その上で、鉄板が倒れる危険性があることは予見可能であり、Y社には現場代理人を通じて事故防止に必要な注意指導を行う義務があったにも関わらず、当該注意義務を怠ったとして被災者の損害につき、逸失利益や慰謝料等合計8488万余円を認めその5割相当(4341万余円)についてY社に支払を命じました。被災者側の過失は3割と認定されましたが、理由については次の点などが考慮されてのものでした。

・ 被災者は本件工事までに、土木工事等に従事する経験を有していたこと
・ 本件作業方法は、被災者も参加して決定したものであったこと


判決後、Y社は最高裁に上告および上告受理申立をしましたが棄却・不受理と決定されました。

関連リンク:労働災害が発生した際の事業主責任
                 一人親方からの損害賠償請求事例
参考リンク:建設業における総合的労働災害防止対策 (厚生労働省のページ)


元請業者が協力会社に対し具体的な作業指示を一切していなかったという場合であっても、その点以外の関係如何に因っては安全配慮義務を負っていたものと認められる可能性があることが上記事例から分かると思います。特に元請業者には災害を防止するという最大の義務が課せられているので明らかに危険性が予見できる協力会社の行動については、現場代理人を通じ注意指導を行うことが求められます。


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