事業主と同居している親族
事業主と同居している親族
事業主と同居している親族のみを使用している事業については、事業主と居住及び生計を一にするものであるため、労働基準法の適用除外となっています。このことは同時に労災保険や雇用保険も適用対象外であることを意味しています。但し、次の3点すべてに該当する場合、当該親族は労働基準法上の「労働者」として取り扱われます。
・常時同居の親族以外の労働者を使用しており、かつ、一般事務又は現場作業等に従事していること
・業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること
・就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。特に、
@始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等及び
A賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期等について、就業規則等その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の従業員と同様になされていること

同居の親族が「労働者」に該当するかどうかは、使用従属性や報酬の労務対償性などを基に判断されることになります。

次の事例は事業主と同居している親族が作業中に受傷したという内容ですが、裁判によって被災者は労働基準法及び労災保険法上の「労働者」であることが認められたケースです。

参考事例 甲府労基署長(甲野左官工業)事件 労働判例1001号19頁

左官業を営んでいた父親の下で左官の作業に従事していた親族(次男)が、父親が請け負った別荘の新築工事現場において2階ベランダ部分で外壁仕上げ材を塗る作業を実施していたところ、塗料が入った缶を取ろうとして後ずさりしたところ同缶につまずき、同ベランダから約3メートル下の1階デッキ部分に転落し、腰椎複雑骨折、第1腰椎粉砕骨折、脊椎損傷の傷害を負った。その後、被災者は甲府労働基準監督署長に対し、労災保険の給付申請をしたところ、同署長は、被災者は労働基準法9条の「労働者」とは認められず、かつ、災害時に中小事業主等の特別加入の承認を受けていなかったことを理由として不支給処分とした。被災者は、不支給処分決定通知を受け、山梨労働者災害補償保険審査官に対し審査請求を行ったが棄却され、更に労働保険審査会に再審査請求をしたところ同じく棄却されたため、これを不服として裁判所に訴えを提起した事件



【事実関係】
・甲野左官工業は、毎月延べ4人から6人ほどをアルバイト従業員として雇用していた
・被災者は、左官工として約10年ほどの職歴を有している一人前の左官工だった
・被災者は、まれに工事現場に1人で派遣されることがあった。その際、元請業者からの簡単な
 指示に対してはその場で判断することもあったが、父親や同じく左官工として働く兄の作業指
 示と異なる場合には父親らに電話連絡するなどして相談して対応していた。また被災者はこれ
 まで自ら仕事を受けたことはなく、元請業者からの仕事の依頼は父親あるいは兄が行っていた
・被災者は、出生以来、両親と同居する生活を続けており、父親から支給される賃金はすべて自
 らのために費消し、食費等の生活費を父親らに支払うことはなかった
・会社には就業規則がなかった
・被災者や兄を含め現場作業員全員について、1日の労働時間は7時間30分であり、また、有給
 休暇の付与や時間外手当についても支給する扱いにはなっていなかった
・労働時間等の管理は、経理担当である母親が作成する出面帳により行われていたが、全日か半
 日かの区別しかなされておらず、出勤時間や退勤時間までの管理はされていなかった
・被災者に対する給与は、毎月25万円の月給制であるのに対し、兄及びアルバイト従業員につ
 いては日給月給制で日当単価は、兄が1万5000円で計算され、アルバイト従業員は1万円〜1
 万5000円で計算されていた。なお、被災者に対する給与が月給制になったのは、母親が、地
 元の商工会より被災者を青色専従者として給与を経費として青色申告するためには月給制にし
 なければならない旨言われたものによる対応だった
・他の左官業者への応援としてそこで働く場合の日当単価は父親と兄が1万5000円であるのに
 対し、被災者は1万2000円であった

甲府地裁 平成22.1.12判決

【使用従属性について】
「原告(被災者)は、平成18年1月から9月までの間、平均月22.2日にわたり、作業現場に出向いている。そして、日によって違いはあるものの、原則として午前8時ころ、父親方を出発し、作業現場において左官作業に従事し、午後5時ころには作業を終え、父親方に戻るという日課で労務を提供している。また、原告は、左官工としては一人前ではあるものの、現場を1人で任されることは原則としてなく、父親や兄と作業する際は、現場責任者であるいずれか一方の指示に従って作業をしており、本件災害時も父親の指示の下で作業に従事していたと認められる。
以上によれば、原告が、使用者たる父親の使用従属下において労務を提供する関係にあったことは明らかである。」  

【報酬の労務対償性について】
「原告は、上述したとおり、毎月平均22.2日間にわたり、父親や兄の指揮監督の下で左官工としての技能を活かして作業に従事し、その間、毎月25万円を得ていたというのであるし、原告、父親及び兄らは、この25万円が左官作業への対価であるとの共通の認識を持っていたことは明らかである。また、原告が受け取っていた月25万円の給与の平均日当単価(平成18年1月から9月)は、1万1250円であるところ、原告が他の左官業者方で応援として作業する場合の日当単価は1万2000円とほぼ同様の金額であり、このことからも毎月25万円が労働の対償であることを裏付けるものといえる。
以上によれば、原告は、労働基準法及び労災保険法上の労働者に当たると認められる。」

上記の理由などにより、甲府地裁は甲府労働基準監督署長が行った不支給処分を取り消しました。なお、給与額の決定方法の違いなどの点については、

・地元商工会からの指導を受けたためであって、原告を優遇する趣旨から恣意的に決定されたものではないこと
・父親はかつて住み込み従業員を月給制で雇用したことがあったこと
・個人経営の左官工は、通いで働く職人には日給制で、住み込みで働く職人には月給制で賃金を支払う場合があることなどが認められ、原告の立場は住み込み従業員に類似するともいえること

などの点を挙げた上で、原告に対して月給制を採用していたとしても不自然、不合理とはいえないとして監督署側の主張を退けました。



同判決では、他にも、監督署側が主張した『同居の親族については、原則として労働者性を否定すべきである』という解釈は採用されませんでした。同居の親族に対する労働者性の有無についての判断は、あくまでも実態に基づいて行われるものであるため、たとえば他の労働者とは扱いが異なり
・同居の親族だけ勤怠管理を行っていない
・同居の親族だけ欠勤控除をしていない
・同居の親族だけ明らかに給与が高額である
などの場合、当該親族は労働者として認められずに労災保険が不支給となる可能性があります。


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